19/10/2026
【ARCHITECT COLUMN|VOL.40】
【一級建築士が教える】
「その壁、本当に壊せますか?」
― 間仕切り壁と構造壁。見た目だけでは判断できない。―
中古マンションのリノベーションで、「この壁を撤去して広いLDKにしたい」「和室とリビングを一つにつなげたい」というご希望をいただくことがあります。
しかし、壁はすべて自由に撤去できるわけではありません。
建物を支える構造壁と、部屋を区切る間仕切り壁では、役割が大きく異なります。
今回は、壁の撤去を検討する際に知っておきたいポイントを解説します。
■ ① ラーメン構造と壁式構造の違い
RC造マンションには、主にラーメン構造と壁式構造があります。
【ラーメン構造】
柱と梁を主体として建物を支える構造です。住戸内の非構造壁は撤去できる場合があり、比較的自由に間取りを変更できます。
ただし、柱・梁・構造上必要な壁を自由に撤去できるわけではありません。
【壁式構造】
壁と床スラブなどで建物を支える構造です。構造上必要な耐力壁を自由に撤去することはできません。
重要なのは、建物がどのような構造で成立しているかを確認することです。
■ ② 壁の厚さや見た目では判断できない
「薄い壁だから撤去できる」「厚い壁だから構造壁」という判断は正確ではありません。
コンクリート壁でも構造上主要な役割を持たない壁があります。一方、仕上げや下地によって厚く見えている壁もあります。
壁の厚さや表面の仕上げだけでは、撤去の可否を判断できません。
■ ③ 意匠図だけでなく構造図を確認する
意匠図には、間取り・寸法・建具・仕上げなどが記載されています。
一方、構造図には柱・梁・壁・床スラブなどの構造部材について、配置や寸法、配筋などの情報が記載されています。
意匠図では単なる壁に見えていても、構造図を確認すると耐力壁として設計されている場合があります。
そのため、壁の撤去を検討する際には構造図の確認が重要です。
ただし、築古マンションでは構造図が残っていない場合もあります。
その場合は、必要な追加調査や構造検討を行い、安全性を確認できるか慎重に判断する必要があります。
■ ④ 図面と現況が一致するとは限らない
ここが今回、特にお伝えしたいポイントです。
既存建物のリノベーションでは、図面に記載されている内容が、必ずしも実際の建物と一致するとは限りません。
例えば、施工時の変更、過去のリフォーム、図面に記載されていない配管、想定と異なる壁の構成などです。
そのため、設計段階では既存図面と現地調査をもとに撤去の可能性を検討します。
そして、解体時に実際の壁・躯体・設備の状況を確認し、撤去の可否を最終判断することが重要です。
ただし、構造上の安全性が確認できない壁を、判断のために先行して撤去することはできません。
必要に応じて部分的な先行調査や構造設計者による検討を行います。
また、解体時に想定外の状況が判明すれば、設計変更や追加工事が必要になる場合もあります。
■ ⑤ 構造上撤去できても、自由に壊せるとは限らない
マンションでは、構造躯体は一般的に共用部分として扱われます。
そのため、構造上撤去できる可能性があっても、区分所有者の判断だけで撤去できるとは限りません。
管理規約や管理組合の承認なども確認する必要があります。
また、壁内部には給排水管・電気配線・換気ダクト・通信設備などが通っている場合があります。
構造だけでなく、設備や管理上の制限も含めて検討します。
■ ⑥ 築古マンションではアスベストにも注意
築古マンションの解体・改修工事では、石綿(アスベスト)含有建材の事前調査も重要です。
壁材・下地材・接着剤・天井材などに石綿が含まれている可能性があります。
見た目だけで含有の有無を判断することはできません。
解体・改修工事では、法令に基づく事前調査が必要です。
石綿含有建材が確認された場合には、適切な飛散防止措置や廃棄物処理等が必要となり、工事費や工程に影響する場合もあります。
構造上撤去できる壁であっても、安全に解体できるかは別の確認事項です。
■ ⑦ 撤去できない壁を設計に活かす
壁を撤去できないからといって、希望する空間を諦める必要はありません。
例えば、既存の壁を利用して収納を設ける。壁の両側に異なる用途を配置する。柱や梁をデザインの一部として取り込み、照明や素材によって存在感を調整する。
こうした工夫によって、構造上の制約を空間の特徴へ変えることもできます。
リノベーションでは、すべてを取り払うことだけが正解ではありません。
■ ⑧ 中古マンション購入前の確認も重要
リノベーションを前提に中古マンションを購入する場合、希望する間取りが実現できるか、購入前に検討することをおすすめします。
購入後に「撤去したかった壁が構造壁だった」「希望する間取りに変更できなかった」と分かることもあります。
既存図面・構造図・設備図・管理規約を確認し、可能な範囲で現地調査を行う。
ただし、解体しなければ確認できない部分もあるため、購入前の検討には一定の不確定要素が残ります。
その点も理解したうえで、物件を選ぶことが重要です。
■ S・CAPE CONSULTINGが考えるリノベーション
リノベーションは、既存の建物を理解することから始まります。
構造、設備、躯体、共用部分、管理規約、既存建物の状態。
これらを確認し、変えられる部分と変えてはいけない部分を整理する。
そして、図面による事前検討だけで判断を完結させず、解体時に現況を確認して最終判断する。
「壊せない壁があるから、良い間取りができない」わけではありません。
既存の構造を理解し、その条件を活かしながら、新しい暮らしに合った空間を設計していく。
制約を理解し、その中で可能性を最大限に引き出すこと。
それも設計者の重要な役割だと考えています。
株式会社 S・CAPE CONSULTING
一級建築士事務所
Scale to Environment.
一つの建物から、街の未来へ。
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