22/08/2026
金原樹木医と社内の有志で「大手町の森」を訪ねました。
普段来慣れない大手町、丸の内の高層ビル群の雰囲気に圧倒されながら、都心のビルの足元に本物の森をつくるという試みが、完成から12年たった今どうなっているのか。この森が生まれた背景から現在の手入れのされ方まで現地で考えてきました。
この森は、2014年4月に竣工した大手町タワーの敷地の約3分の1、およそ3,600㎡を充てたものです。「都市を再生しながら自然を再生する」という開発コンセプトのもと、見せるための植栽ではなく生態系を持った森として計画されたと伺いました。
都心にこれだけで緑地空間をつくる計画に驚きながら、樹木医として特に興味深かったのは、その段取りです。
着工の約3年前から千葉県君津市の圃場に、現地と同じ地形・土壌で森を先につくり、施工や育成、除草・剪定といった管理の方法まで確かめてから、大手町へ移したそうです。
「プレフォレスト」と呼ばれる手法で、移植は樹木にとって大きな負担になりますから、先に同じ条件で育てて確かめるという手間のかけ方には学ぶところが多いと思いました。植え方も、苗木から成木まで樹齢を混ぜ、常緑樹と落葉樹を混交させ、密度をあえて不揃いにするという、野生の森に近づける考え方で組まれています。高木はおよそ200本、周辺の気候風土に合う樹種が選ばれています。
管理にも、この森らしさが表れていました。落ち葉は集めて森に戻し、自然の力をなるべく生かす方針がとられているとのことでした。バイオネストというやり方で、植栽地の中に目立たない様な雰囲気に、剪定した樹木の枝を鳥の巣のように丸く組んで枠を作り、その中に落ち葉や刈り草を入れて堆肥(腐葉土)を作る循環型の仕組みが出来ていました。
定期的なモニタリングでは、シジュウカラなどの野鳥やチョウ、東京都のレッドリストに載るトンボの飛来、皇居の方角から来たとみられるタヌキの目撃まで報告されるそうです。
植えた植物だけでなく、ミズヒキのような実生も自然に定着してきていました。現地を歩くと、人が入れる場所を絞り、森の中心には立ち入らない領域が広く取られているのが分かりました。都心のオフィス街で落ち葉を掃き捨てずに土へ還すのは、普段植栽管理作業をしている私たちにとっても美観や安全との折り合いが要る簡単ではない判断で大変だろうと思いましたが、それを続けてきた12年の積み重ねが、いまの森の姿をつくっているのだと感じました。
その効果は、気温にも表れています。樹木の蒸散と土壌の保水が気温の上昇を抑え、シミュレーションでは森の敷地内で平均1.7℃低くなるとされ、昨年8月の実測でも、よく晴れた昼間に永代通り側の歩道と森の中とで最高気温に約3℃の差が確認されたそうです。地表面温度は歩道が40℃を超える一方、落ち葉や草に覆われた森の中は30℃台前半で、樹冠がつくる日陰と、落ち葉を土に還す管理が数字を押し下げたと分析されています。体感としてはもっと涼しく感じたのではと思います。
都市の緑を「樹冠被覆率」で捉える考え方があるように、伸びやかに広がった樹冠をどれだけ大きく保てるか、いわば樹冠の最大化が、夏の気温や照り返しを和らげる力になります。私たちが植栽のご提案でお話ししていることを、大手町の実測値が裏づけてくれているようでした。
この取り組みは評価としても形になっていて、都市公園コンクールで国土交通大臣賞を受け、2025年には国土交通省の優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)で最高評価による第1号認定を受けています。敷地の3分の1を建物ではなく森に充てた判断が、10年あまりを経て、働く人の憩いや生き物の戻る環境、都心のこの場所ならではの付加価値という形で返ってきているように見えました。
私たちが普段お手伝いしているマンションや寺社の緑も、規模は違っても、植えて終わりではなく、手を入れながら育てていくものです。植えた時が完成なのではなく、そのあとの管理が緑を育てていく。そのことを大手町の真ん中で、皆で確かめられた時間でした。
金原先生、暑い中ありがとうございました。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊